本物のレイアウターはフチを恐れずに付ける。
もちろん、元ネタは、「本物のプログラマーgotoを恐れずに使う」なわけですが(w。
つい最近まで、フチ恐怖症だったのです。いや、切実に。
フチ付きの文字が嫌いだったのではなく、フチが恐かったのですよ。フチを付けるのが文字通り恐い。フチと聞いただけで微妙に震えるくらいでした。
フチの恐怖を味わったのは、忘れもしない、25歳の夏の事。
アダルトビデオのジャケットを作った時、裏面のキャッチコピーの指定に、何のためらいもなく「フチ M100+Y100」と書いたのでした。
翌日、製版屋さんに呼び出されました。
小さい製版屋さんで、社長直々に説教です。
「お前らは、簡単にフチとか書きすぎる。お前らは二文字【フチ】と書けばすむかもしれないが、こっちは大変なんだ。今からフチを付ける作業を見せてやるから思い知れ」
と言って、フチを作る作業を始めました。
原稿台に版下を乗せ、トレスコで僅かにピントをズラして、太らせ版を作ります。
製版用の感材は連続階調が出せない仕様のものなので、ボケ部分は、グラデーションではなく、太ったベタになります。
こいつを、フチ部分にして、中の文字を抜くわけです。
そこまでに、アレを反転して、コレを合わせてとか、めんどくさい作業があるのです。
そういう作業を半日くらい見せられてから、
「うちは、フチを付けるほどの代金はもらっていない。フチを付けるとか軽々しく書くな。フチなどいらない配色を考えるのがお前の仕事だ」
などと、延々と説教されたのでした。右手にはカッターを持ったまま(w。
若気の至りで「それをやるのがこちらの仕事では?」などと反論したものだから、更に説教でした……。
グラデーションをあんまし使わないのもここの社長に怒られたから。
グラデーションを作る機械が当時、既にあったと思うのですが(他の印刷所でいわれた事はなかった)、そこの製版屋さんにはなくて、グラデーションっていうならスクリーントーンを付けて来い。って怒られたのでした。
今でも色校に「版ズレ」とは絶対に書きません。まぁ、DTPで版ズレは出力系のバグとか、送りのスリップでもなければありえませんが……。
それもやっぱりここの社長。
色校に「版ズレ」と書いたら、呼び出されたのでした……。
「版ズレっていうのは、貼り込みがずれている時に使う言葉で、この色校の状態は見当ズレっていうんだ。版ズレはうちの責任だけど、見当ズレは印刷屋のせいだ。見当ズレなのに版ズレと書くとは失礼にも程がある」
手作業の時代は、たしかに「版ズレ」はあったので、「見当ズレ」に対して「版ズレ」と書いたのは失礼だったとは思いますが、その辺のズレ全般を指して「版ズレ」と呼ぶのは、当時でも割と普通になっていたと思います。なのに、このときは社長マジ切れしてました。
この社長に呼び出されたのは、フチ&グラデーションのときと、版ズレのときの二回。
それだけで、フチ、グラデーション、版ズレに対して恐怖心を抱くのに充分でした。
それ以来、21世紀になっても、フチもグラデーションも極力使わず、色校の校正用語には細心の注意をはらってきました。もちろん、社長に呼び出されないために(w。
ようやく、去年くらいから、フチが恐くなくなりました。
というのも、こちらの会社で、私の前にいた常勤のフリーの女の人が激しくフチを多用する人で、その路線で売れていたので、引き継いだものはその路線を継承するわけです。いやでもフチだらけ(w。
エロ本を見かける機会がある人は見た事があると思いますが、200Qくらいの大きさで「中出し」とか、400Qくらいの大きさで「DVD8時間」みたいなキャッチ。あの路線を始めたのがその女の人で、いわゆる天才です。それ以前にあの大きさの文字はほとんど見た事がありません。いまでは普通ですが、先駆者とは偉大なものです。
お陰でようやくフチの恐怖から解放されました。
付けた方が良さそうなときは、恐れずに付けます。どうせ付けるのは機械だし(w。
しかし、あの社長みたいな職人。いなくなったなぁ……。